強度行動障害を抱える家族の日々は、他人が想像する以上に過酷なものです。突然のパニックや自傷行為、他者への攻撃など、障害のある本人も家族も疲弊してしまう現実があります。加えて、障害者施設の不足や、専門的な支援が提供されない中で、家族は大きな負担を抱え続けています。本記事では、強度行動障害を抱える家族の苦悩と、受け入れ施設の不足、そして支援体制の課題について、現実に寄り添いながら掘り下げていきます。
強度行動障害とは？
まずは「強度行動障害」とは何かを整理しておきましょう。強度行動障害とは、頻繁に自傷や他傷行為を行ったり、物を壊したりするなど、非常に強い行動が見られる状態を指します。これらの行動は、本人の意思とは無関係に、周囲の環境やストレス、不安が原因で引き起こされることが多く、発作的に現れます。決して生まれつきの問題ではなく、周りの環境や人との関わり方が影響してくる二次的な障害です。
厚生労働省の調査によると、日本全国で少なくとも4万人がこの障害を抱えていると言われています。彼らが抱えるのは本人だけの問題ではなく、介護する家族にも大きな影響を及ぼし、生活全体がその対応に追われる日々です。
家族の現実と生活の苦悩
例えば、長野県に住む蒲和美さん（51歳）とその息子涼太さん（27歳）の例です。涼太さんは重度の知的障害を持っており、家事を手伝うこともできるものの、突然のパニックに見舞われることがあります。彼のパニックは、時間に対する強いこだわりがきっかけで起こることが多いそうです。お風呂に入る時間が午後5時まででなければならない、予定が少しでもずれると混乱し、自分の頭を叩きつけるような自傷行為に走ってしまいます。
和美さんは息子を抱きかかえながら、何とかパニックを収めようと日々奮闘していますが、その負担は非常に大きく、時には和美さん自身が体にあざを作るほどの力を必要とします。彼女は次のように語っています。
「抱きかかえると、この辺（肩や腕）に頭がぶつかって、ゴンゴンと強く叩きつけられ、あざになるんです。止めようとするけど、一時間半続くこともあって、もう私の体力も限界です。」
このように、強度行動障害を持つ家族は、日々の生活が非常に制約されたものとなり、親が老いて体力が衰えるにつれて不安が増していくのが現状です。
受け入れ施設の不足と家族の将来への不安
こうした現実を前に、親たちは自分が老いる前に子どもを預けられる受け入れ施設を見つけたいと願います。しかし、その受け入れ先を探すことは非常に困難です。特に強度行動障害を持つ人を受け入れる施設は限られており、パニック時に自傷行為を抑えられるような体制が整った施設は少ないのが現状です。
長野県の蒲家族も、息子涼太さんを預けられる施設を探していますが、5年間で40箇所以上を訪ねても受け入れ先が見つからない状況が続いています。なぜこれほど受け入れが難しいのでしょうか？その理由の一つは、専門的な知識や技術が必要なこと、また施設自体のリソースが限られていることにあります。
大阪府岸和田市にある障害者入所施設「山直ホーム」では、重度の知的障害と強度行動障害を持つ人を40人受け入れていますが、それでも130人以上の待機者がいるため、新たな受け入れは困難です。施設長は次のように語っています。
「一施設だけで頑張っても限界があります。国がもっと支援体制を充実させ、強度行動障害に対応できる施設や支援を増やすことが必要だと感じます。」
待機者が多く、施設側も限界に達している状況では、家族は安心して子どもを託すことができる環境を見つけるのが難しくなっています。
コメントから見える現場の声
この記事には多くのコメントが寄せられていますが、その中には施設で働いていた経験者からの切実な声も見られます。ある方はこう語っています。
「以前、障害者施設で勤務していましたが、受け入れは本当に難しいです。他の利用者に危害を加えることもあるので、職員が常に1人ついていないといけません。それでも、職員の数が足りず、毎日が大変でした。給料が安く、精神的にも肉体的にも限界でした。」
現場で働く人たちも、過酷な労働条件の中で対応しており、職員不足や低賃金が問題となっています。こうした状況が続く中で、受け入れ施設の数を増やすことや、職員の待遇改善が進まなければ、家族の負担は軽減されないままです。
支援体制の改善に向けて
強度行動障害を持つ人々とその家族を支えるためには、国や社会全体での支援体制の改善が不可欠です。現状では、国は「地域移行」を進め、地域での生活支援を拡充しようとしていますが、強度行動障害のある人にとって、グループホームなどの少人数施設での受け入れは容易ではありません。
まず、職員の待遇改善が急務です。低賃金のままでは、福祉業界に新たな人材が集まらないだけでなく、既存の職員も次第に疲弊していきます。あるコメントにも、施設での勤務経験者が次のように述べています。
「私は田舎で働いていましたが、手取り16万円弱で、生活ができませんでした。体力的にも精神的にも厳しく、最終的に8年で辞めてしまいました。」
このような現状が続く限り、福祉業界の人手不足は解消されず、受け入れ施設の数も増えないでしょう。職員の待遇改善を進めることで、より多くの人が福祉の仕事に就くことができ、結果的に家族の負担を軽減することができるのです。
専門的な支援と環境整備の必要性
また、強度行動障害を持つ人々に対する支援には、専門的な研修や技術が必要です。パニック時に適切な対応ができるように、専門職の育成が求められます。ある施設の元職員はこう述べています。
「強度行動障害の研修を受けましたが、現場での対応は本当に難しいです。他の利用者に危害が及ぶこともあり、いつも緊張感が絶えませんでした。」
研修を受けた職員が増えることで、施設内でのトラブルが減り、より安全で安心できる環境が整うことが期待されます。また、パニック時に必要となる薬物療法や行動療法の導入も進めるべきです。
まとめ：家族が安心できる未来へ
強度行動障害を持つ人々とその家族が直面する問題は、受け入れ施設の不足や支援体制の未整備によって、非常に困難なものとなっています。しかし、国や社会全体で取り組むことで、少しずつ状況は改善されつつあります。家族が安心して将来を託せる施設が増え、職員の待遇改善が進むことで、強度行動障害を持つ人たちが安全で安定した生活を送れる未来が訪れることを願っています。