女性にAEDを使用することへの躊躇：命を優先するために越えるべき障壁
AED（自動体外式除細動器）は、心停止の緊急事態において生命を救うために重要な役割を果たします。しかし特に女性への使用に関しては、服を脱がせる必要があることなどから「セクハラのリスクがある」「助けるメリットがない」といった声が上がり、その使用がためらわれる場面も見られます。こうした懸念がどのように命を救う行動に影響を与えているか、そしてどうすればこの壁を乗り越えられるのかを考えてみましょう。
AEDの使用における男女差の現実
2019年、京都大学などの研究チームが行った調査によれば、学校構内で心停止に至った高校生に対するAEDの使用率は、男子生徒で83.2%、女子生徒で55.6%と、約30ポイントの差が見られました。この背景には、女性の胸に触れることや服を脱がせることへのためらいが大きな要因となっていると考えられます。
一部の男性救助者は「セクハラで訴えられるリスクが怖い」という理由から女性へのAED使用をためらい、結果的に救命行為が遅れてしまうこともあります。「命を救うことが最優先」という認識は重要ですが、現実として、救助者の心理的な障壁が救命率に大きく影響を与えていることは見逃せない問題です。
女性にAEDを使う際の具体的な配慮方法
1. 衣服をすべて脱がさなくても使用可能
AEDを使用する際には、電極パッドを素肌に直接貼り付ける必要がありますが、服をすべて脱がせる必要はありません。株式会社ヤガミの担当者も、「服の下からブラジャーをずらして、電極パッドを貼ることができれば、それで十分」だと述べており、プライバシーに配慮しながら救命行為を行うことが可能です。
また、ブラジャー自体を外さなくても、金属部分がパッドに触れないように注意すれば問題ありません。さらに、パッドを貼り付けた後に上からタオルや衣類をかけて肌を隠すことで、被救助者のプライバシーへの配慮をさらに高めることができます。
2. 救助者以外の協力者の役割
女性へのAED使用においては、周囲の協力者の役割が非常に重要です。救助現場にいる他の人々が、例えばタオルを提供して肌を隠す、野次馬を遠ざける、もしくは人垣を作ってプライバシーを保護するなどの協力をすることで、被救助者への配慮を行うことが可能です。
「AEDを使っているところを面白がって撮影する」などの行為は、被救助者にとって非常に苦痛です。これに対して、救助者や協力者が「撮影しないでください」と声をかけることや、必要でない人を遠ざけることが重要です。救命行為が行われている現場でのプライバシー保護は、救助者がより安心して救命に集中できる環境を作るためにも欠かせません。
法整備と社会的理解の必要性
AEDの使用については、日本ではこれまでに女性への使用に関して訴訟が起こったことはないものの、「今後訴訟になる可能性があるのでは」という声も少なくありません。例えば、「AEDのためだろうと男性に触られるくらいなら訴える」というSNS上の投稿が一部で話題になり、これが救命行動に対する男性の不安を増幅させていることも事実です。
こうした状況を改善するためには、「善きサマリア人の法」のように、救命行為を行った人が法的責任を免れることを明文化した法律の整備が求められます。千葉県では、AED使用に関する訴訟費用を貸し付ける制度を設けるなど、救命行為を促進するための取り組みも行われていますが、これは訴訟リスクが存在することを公に認めているとも言えます。
命を救うために必要な社会的な支え
命を救うためには、緊急時にためらわずに行動することが何よりも重要です。しかしその一方で、救助者の心理的な負担を軽減し、安心して行動に移せるような社会的な支えも必要です。救命行為を行うことでセクハラや痴漢行為として訴えられるリスクを少しでも減らすため、救助現場での協力体制や法的な整備が不可欠です。
また、AEDの使用に関する教育の普及も必要です。正しい手順を理解し、救命行為に自信を持てるようになることで、救助者が女性に対してもためらうことなくAEDを使用できるようになります。
1. 心理的負担を軽減する取り組み
救命行為において、救助者の心理的負担を軽減することは、実際に救命行動が取られるかどうかに直結する重要な要素です。周囲の人々が救助者の行動を支えることで、救命率を高めることができます。例えば、救助中の野次馬による撮影を防止したり、人垣を作るなどの行動が必要です。また、救命行為に関わる人が訴訟のリスクを負わないようにするための法整備も求められます。
2. 普段からのAED講習会の重要性
AEDの使用に関する講習を受けておくことも重要です。特に女性に対する配慮を含めたAED使用方法の教育を受けることで、救命のための正しい知識と技術を習得し、実際の場面でもためらわずに行動する自信を持つことができます。こうした講習は消防署や医療機関で受けることが可能であり、多くの人が受講することで救命行為に対する社会全体の理解と対応能力が向上します。
まとめ：命を救うための行動と社会の理解
AEDの使用に関する問題は、命を救うための行動と、その過程で求められる社会的な配慮とのバランスに関わる問題です。救助者がためらわずに行動できる環境を整えることが、最も大切な命を救うことにつながります。
私たち一人ひとりがAEDの使用についての正しい知識を持ち、緊急時にためらわず行動できる社会を作るために、今何ができるのかを考える必要があります。そして、救助者に対する心理的な支援や法整備を進めることで、救命行動がより実行しやすい社会にしていきましょう。