全国の公立高校で、タブレット端末が授業の必須アイテムとなりつつあります。コロナ禍では国の交付金を使って提供されていましたが、コロナが収束するに従い、多くの自治体で保護者負担に切り替わりました。これにより、特に複数の子どもを持つ家庭にとって大きな経済的負担が生じ、保護者からは「こんなにお金がかかるなら、高校に行かせられないかも」という悲鳴が聞こえてきます。
コロナ禍で加速したタブレット導入とその後の負担増加
2020年のコロナ禍で全国の学校が臨時休校となり、文部科学省は「GIGAスクール構想」を前倒しで推進。1人1台のタブレット端末を整備し、オンライン授業やデジタル教材を通じて子どもたちの学習を支えました。この時は国の支援によって公費で提供されていましたが、コロナ禍が落ち着き、学校生活が通常に戻る中で、次々と保護者負担に切り替えられました。
「うちには双子がいて、2台分のタブレット購入は本当に大きな出費でした」と語るのは、東京都内に住む一人の母親。「授業には必要だとわかっていても、その費用を準備するのが厳しかったです。もっと事前に説明があれば、なんとか計画を立てられたかもしれませんが、急に言われても…」と、対応の遅さに不満を感じています。
現在の状況:香川県のケース
香川県では、2024年度から県立高校の新入生に対して、タブレット端末の費用を保護者が負担することになります。1台あたりの端末費用は約5万5000円、さらに学習支援ソフトやセキュリティソフトを含めると7万5000円ほどの金額です。3人の子どもが県立高校に通う福本由紀子さん(仮名)は、この負担が家計に与える影響に頭を悩ませています。「タブレットだけで22万円以上かかるなんて予想していませんでした。子どもたちの教育に必要なものだと理解していても、これは負担が重すぎます」と語ります。
この負担に対して、福本さんは7月に地元の保護者たちと「香川県の高校生のタブレットについて考える会」を立ち上げ、署名活動を開始しました。街頭での活動に加え、オンライン署名も行い、多くの賛同者を集めています。「教育はすべての子どもに平等に与えられるべきです。負担が大きすぎると、進学を諦める家庭が出てしまう」と懸念を示しています。
他の自治体の動向:群馬県のBYOD方式
香川県だけでなく、他の自治体でも保護者負担への切り替えが進んでいます。群馬県では2023年度から「BYOD(Bring Your Own Device)」方式を導入し、家庭で購入した端末を学校に持ち込む形を採っています。手持ちのタブレットやPCを利用できるため、端末を新たに購入しなくても済む場合もありますが、それでも「端末が古くなったり、性能が足りなくなったりした場合の買い替えは結局自分たちの負担になる」という声も聞かれます。
「BYODなら好きな端末を使えるのは良いけど、家の古い端末では授業で使うソフトが動かないことがあって結局買い替えました。これが続くと結構な出費になります」と、群馬県のある保護者は現状を説明します。
保護者の経済的負担とその影響
このように急激に増える負担に対して、経済的な影響は深刻です。総務省の調査によると、家庭が子どもの教育にかける費用は年々増加しており、タブレット端末の購入費はさらなる家計の負担となります。特に、シングルペアレントや低所得世帯では、この追加費用が家計を圧迫し、場合によっては「進学自体を諦める」決断を迫られることさえあります。
「うちはシングルマザーで、家計が厳しい中で毎月やりくりしている状況です。タブレット端末が必要だと言われても、その費用をどう工面するのか、本当に悩んでいます。高校に行かせられないなんて考えたこともなかったけれど、この負担が続けばそうせざるを得ないかもしれません」と、ある母親が声を震わせて語ります。
「タブレットは文房具か?」という議論
自治体や教育委員会の中には、「タブレットは文房具として捉えるべき」という主張もあります。これは、学生が個人で所有し、学校での学習だけでなく、家庭でも活用することを期待しての考え方です。しかし、この論理に異を唱える専門家もいます。千葉工業大学の福嶋尚子准教授は、「タブレット端末は文房具ではなく、授業に欠かせない教育ツールであり、本来学校が提供すべきものだ」と指摘しています。
「家庭の経済状況で、子どもが教育ツールを手にできるかどうかが決まるのは不平等です。学校で必須のものなら、学校が責任を持って提供するべきです。これは教育の機会均等に関わる重要な問題です」と福嶋准教授は続けます。
教育のデジタル化とその課題
タブレット端末の導入により、教育のデジタル化は急速に進んでいます。デジタル教材の利用、オンラインでの宿題提出、授業資料のデジタル配信など、学習の効率化や利便性が高まりました。しかし、一部の保護者からは、「授業以外の時間に子どもがゲームや動画視聴に使ってしまう」といった懸念も寄せられています。
また、学校によっては、指定された機種以外の端末を使用できないというルールがあり、兄弟間で「お古」を使い回すことができないという声も上がっています。「制服や教科書と違って、タブレットは簡単に譲り渡せない。これも不便です」と、2人の子どもを育てる父親は苦い顔を見せました。
負担軽減のための解決策
こうした問題に対し、いくつかの解決策が模索されています。東京都では、タブレット端末の購入費用の一部を補助する制度が導入されており、多子世帯や低所得世帯には無償貸与が行われています。さらに、他の自治体でも、端末のリース制度や分割払いの導入が検討されています。
「少なくとも、端末をリースしてもらえれば、一度に大きな出費を避けられるので助かります。今後、他の地域でもこのような制度が広がれば良いと思います」と、都内の保護者は安堵の表情を見せました。
結論
タブレット端末の保護者負担が急増する中で、子どもの教育機会が失われるリスクが高まっています。国や自治体は、保護者が過剰な負担を感じずに済むよう、さらなる支援策を講じる必要があります。教育のデジタル化は重要な流れですが、すべての子どもが平等に学ぶ権利を持つべきです。これ以上の負担を家庭に強いることなく、適切な支援策を早急に整えることが求められています。